後悔していない日
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
その日に向けてのイメトレは、完璧だった
ブツも用意した
あとは、実行するのみ。
失敗するイメージは無し!成功のイメージしか頭に無かった
もちろん場所も決まっていた
どの場所にするか結構考えたけど、やっぱりあの、初めて二人で会ったあそこの駅の改札前ですることにしていた
ブツもちゃんと買った
指輪のサイズは、聞いてしまうとバレるのでネックレスにした
お値段は、自分にしてはだいぶ頑張った
言葉も、決めていた
前後はむにゃむにゃになってしまうかもしれないけど、決め言葉だけはカチッと考えていた
あとは、実行するのみ。
そしてその日が来た
なるべく普段どおりに待ち合わせをして、なるべく普段通りに食事をして、なるべく普段通りにあそこの駅の改札前まで来た
今思うと、普段通りにしてたつもりだけど、なんかぎこちなかったかもしれない
そしてついに実行開始だ。
イメトレだと完璧だったけど、いざ本番となると急に緊張した
案の定、前振りはむにゃむにゃだったけど、決め言葉だけはしっかり言えた
「必ず一生幸せにするから、結婚してください」
「はい」と答えた彼女の笑顔を、今でも鮮明に覚えている
それから10年近く経った今、その日の約束を、守ることが出来なかった自分がいる
あれから色々あった
大袈裟ではなく、何百回も喧嘩した
お互い傷つけあった
でも、その日のことを、後悔はしていない
ただ、自分の記憶に残る、鮮明な日だっただけだ
プロボーズを受けてもらってから、少し散歩をすることにした
アーケードを歩いていると、向こうから手をつないで歩いてくる老夫婦がいた
「私たちも、あんな夫婦になれるといいね」
と彼女は言った
そんな日だった